契約書翻訳の要点: 2008年9月アーカイブ

 

前回(昨日)の記事の続き②~④です。


英文契約書は英米法的な慣習を踏んで、一般に recital (表示部) または premises (前文) と呼ばれる「前文」から始まります。

前文を構成する諸要素には以下の通りです。
①契約書の名称
②契約の締結日と締結地
③契約の当事者の名前と住所
④Whereas clause

②契約の締結日と締結地

契約の締結年月日(date of execution)は、それが2社間の契約であれば双方の当事者代表が署名した日となります。例えば、一方当事者が先に署名し、それを他方当事者へ郵送あるいは持参してその署名を取り付ける場合は、遅れて署名した日が締結日となります。

締結日は必ずしも発効日となるわけではありません。例えば、(法的な問題の無い限り)すでに契約内容の履行が始まっている場合には、書類上の締結日を遡及することもありますし、合意の上で日付けを先に延ばすこともあり得ます。弊社で手掛ける翻訳の契約書原稿には日付の入っていない状態のものが大半ですが、なかには過去の日付に遡って明記されているものも実際にありました。

 

③契約の当事者の名前と住所

法人の場合は、「住所」に当たるその主となる営業所、つまり登記してある本社の所在地となります。法人格を持たない支店が当事者として契約書に見られることがありますが、署名する代表者が代表権を持っていないか、契約締結の委任を会社から受けていないと、問題が起きた時にややこしい事態に陥ります。

 

④Whereas clause
契約の締結に至る事情の説明で、"Whereas" という語で始まるパラグラフを指します。

 

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◆約因(consideration)について

本記事で取り上げている契約書「前文」の終わり、つまり第1条が始まる前に以下のような表現がよく登場します。

"Now, therefore, in consideration of the mutual convenants and ・・・"

この"in consideration of" は「・・・を約因として」と訳され、「~を考慮して」とは違っていると解釈されます。これは、英米法的な表現であり、"consideration" が契約の成立において重要な要素であることに由来します。

一方で、この「約因」という表現を全く使わず、以下のような表現にしている契約書もあります。

"Now, therefore, the parties hereto do hereby agree as follows : "
(よって、本契約の両当事者は本書をもって以下のとおり合意する)

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次回はその(↑)「約因」について触れてみたいと思います。

 

 

英文契約書は英米法的な慣習を踏んで、一般に recital (表示部) または premises (前文) と呼ばれる「前文」から始まります。

前文を構成する諸要素には以下の通りです。
①契約書の名称
②契約の締結日と締結地
③契約の当事者の名前と住所
④Whereas clause

①契約書の名称

各契約書が "Agreement" または "Contract" と表記されているだけでは、それぞれの性質がわかりません。そのため、以下のような名称で表記します。こうすることで、表紙を見ただけで契約の内容がわかります。

【契約書名称の例】
・Exclusive Distributorship Agreement : 独占的販売店契約
・Non-exclusive Agency Agreement : 非独占的代理店契約
・Technological (Technical, Technology) Licensing Agreement : 技術ライセンス契約
・Joint Venture Company Agreement : 合弁会社契約
・Shareholders' Agreement : 株主間契約
・Technical Development Agreement : 技術開発契約

以上は国際取引契約に関する例ですが、もっと広い意味で契約に関連する書類としては、"memorandum" (覚書)・ "addendum" (付属書)・ "letter of intent" (意思確認書)などがあり、内容により違った呼び方がされます。


 

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契約書の名称として、よく "Agreement" と "Contract" が比較されます。
"Agreement" が「合意書」または「協定書」であり、契約("Contract")よりも法律的にみて軽いと捉えている人もいるようですが、それは誤解と言えます。確かに「合意」も "Agreement" と言いますから、特に前文の最後に出てくる "Agreements" は「諸合意事項」の意味になります。ですが、当事者間の法律上の権利義務の発生・消滅・変更を伴う文書ならば、その表題のいかんを問わず契約書として扱わなければなりません。契約書を表す "Agreement" を「協定書」と訳さぬよう注意せねばなりません。

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(次回に続く)

 

契約書を翻訳するにあたって、その契約(最終契約案)締結に至る一般的背景を知っておくことは大切なことです。契約書が合意案までに落とし込まれていくまでの過程はさまざまでしょうが、ここではよくあるパターンを紹介します。

契約に臨む上で一方当事者の努めとしては以下のようになります。
★先ず厳しい基本戦略方針を策定し
★戦術的に自社の権利を十分膨らませておいて交渉の場での妥協の余地を作り
★加えて整合性を保ちながら契約書案を練る

他方当事者としては
★相手側の契約書案の提示を受けた時点から、自社の基本戦略に照らし相手側の表向きの意図・隠された意図・妥協可能な限度を検討し
★コメントと厳しい対案を用意する

その後、両当事者間で交渉が繰り返されていくことになります。

 

契約案がきちんと整合性のとれているものであれば、交渉はスムーズに行いやすいのでしょうが、現実はそう簡単ではありません。契約書案は普通一人の専門家が作成することから、必ず不整合の点が出てきます。こうした点をチェックする専門家がいない場合は、その不整合を指摘するのは他方当事者となります。整然とした契約書案を作るには、2人の専門家が一緒に事に当たるのが理想的ですが、実際には1ケース1名という担任制が多いでしょう。そこに整合性を求めること自体、無理と言えるのかもしれません。

契約書を翻訳していると、翻訳原稿に不整合な点あるいは権利関係の不明瞭さなどを発見することがあります。そういった時は、よく確認をした上でクライアントへ率直に伝えるようにしています。翻訳を依頼される側は、大体において法律のプロではありませんし、原文に忠実に訳していれば問題ないと思われる方もいるでしょうが、そうした姿勢から本当の付加価値は生まれないと私たちは考えています。

「碁盤の目」のように整然とした契約書案を作るには2人の専門家を要するということ、それが実はその翻訳においても同じことが言えるのです。つまり、契約書に精通した翻訳者による訳文に対し、別のチェッカーが細かなチェックを入れていく。この当たり前の作業を、ループ・インタープリターズでは徹底して行っています。

 

英文契約を和文に訳す際によく思うのは、絶対的な義務を表す日本語の表現が少ないということです。
例えば

"PPP shall pay to SSS the yearly minimum guaranteed amount of royalty by the end of each contract yearly period."

日本語に訳すと、「PPPは各契約年度末までに年間最低保証ロイヤルティ額をSSSに支払うものとする。」になります。


この日本的な「~するものとする」式表現と西欧式義務観念とには幾分落差があります。

日本語では「~しなければならない」など、西欧的な絶対的義務(absolute duty to perform) を示す表現はあまり見られず、義務なのか権利なのか区別のつきにくい「~するものとする」式の言い回しが契約書で多く見られます。掘り下げて考えてみると、この日本語の表現には問題の種が潜んでいるように思われます。

つまり、契約当事者の心中に「多少契約の条項通りに履行しなくとも、話し合いで何とかなるのではないか」と考えさせる雰囲気があるということです。契約義務に対するこのような考え方は、いずれ矯正と補償を伴う重大な契約違反(material breach) を引き起こしかねませんので注意が必要です。

9月17日の記事で紹介した"shall have the right to ~" も、「~する権利を持たなければならない」とはせずに「~する権利を有するものとする」という表現を使うのが一般的です。

 

 

国際契約書を扱うにあたって必要とされる「リーガルマインド」とは、一体何でしょうか。

その言葉からすぐ連想されるのは、法律の勉強をしたことがある、あるいは大学の法学部で英米契約法の単位を取っている等々その道の学問経験者が有する考え方や知識かもしれません。

ですが実際には、秩序整然と頭の中で物事を整理でき、整合性を持った考えをまとめる思考能力と言い表せます。言い換えれば、契約における両当事者の位置づけを明確に把握できる能力とも表現できます。

従って、論理による思考を迫られる訓練をしている人なら、法学出身であろうと工学・経営学出身であろうと区別をする必要は全くありません。

これは契約書の作成者のみならず、契約書翻訳を手掛ける側にも当然求められる要素です。

LOOPが抱える契約書分野の優秀な翻訳者には、実は法律という学問を学んだ経験がない人もいます。ただし一方で、国際的企業において実務で長年英文契約書を扱ってきた経歴があります。そうした実務のなかで、自ら契約書を作成する程の力を蓄えていったのです。
その実力はプロの翻訳者としてホンモノであり、確固たるリーガルマインドがそこに存在するのです。

 

前回(9月12日の記事)、販売店契約の例文を取り上げましたが、その内容でもう一つ例を紹介します。

Purchase of Products

(E) Shipment of Orders     BBB will use its best efforts to ship  all orders for Products received from AAA; provided, however, that BBB shall not be liable for any damages, consequential or otherwise, for its failure to fill and deliver AAA's orders for reasons specified in paragraph XX hereof.

日本語訳への翻訳文

E. 注文品の発送  BBBはAAAから受け取った本製品の注文をすべて発送することに最善の努力を払うものとする。ただし、BBBは本契約書第XX条に特定する事由によりAAAの注文に応じ発送しないことを理由として、結果的損害賠償その他の責めを一切負わないものとする。


用語の説明

★"shipment"
必ずしも「船積」を意味するわけではありません。本文のように「発送」あるいは「出荷」という意味で使われることも少なからずあります。

★"will"
(以下は前回の"shall" で説明した内容と同一。復習もかねて再度掲載します)
"will" は"shall" より響きがやわらかく、優位に立つ当事者の義務を示すためによく使われます。法的には、"shall" 同様義務を表します。但し、契約内容によっては「最善の努力をする」といった意味での義務を表していることもあり、そういった場合、義務違反を立証するのは難しいと思われます。

★"shall not"
「~してはならない」ですから、"shall not be liable" は直訳調で言い表せば「責めを負うものとされてはならない」の意味です。これも優位に立つ当事者が使いたがる用法です。

★"consequential"
この単語は直前の"damages"に係っていて、「結果的損害賠償」を意味しています。「結果的損害賠償」とは、普通法(コモンロー)上、契約違反の結果生じたすべての損害(逸失利益を含む)を賠償することです。

★"failure"
「失敗」ではなく、単に「ある行為を行わなかったこと」を意味します。名詞的には、「不履行」と言い表すこともできます。

★"paragraph"
本文では「条」としていますが、通常は「項」の意味に使います。その際、"article", "section", "clause" などが「条」として使われます。また、"section" はその上階層の「節」、「章」ともなります。

★"hereof"
="of this agreement" の意味です。

ここでは一般的な契約文言の例を挙げ、使用頻度の高い契約用語について説明します。契約書翻訳では、よく目にするものばかりです。

以下は、販売店契約でよく登場する文言です。

Purchase of Products

(D) Payment     AAA shall pay for Products supplied hereunder as specified in the related invoices in accordance with the terms of payment specified in respective orders, and such payment shall be made by AAA directly into BBB's bank account to be designated by BBB.

↓ 

日本語訳への翻訳文
本製品の購入

D. 支払  AAAは本契約に従い供給される本製品の対価として、当該注文書に特定した支払条件に従いインボイス(送り状)に特定されたとおり支払をしなければならず、同支払はBBBの指定するその銀行口座に直接行わなければならない。

 

〈用語の説明〉

★"shall"
強い義務を表します。この義務を履行しなければ、不履行による契約違反となります。
shall と will の使い分け
"will" は"shall" より響きがやわらかく、優位に立つ当事者の義務を示すためによく使われます。法的には、"shall" 同様義務を表します。但し、契約内容によっては「最善の努力をする」といった意味での義務を表していることもあり、そういった場合、義務違反を立証するのは難しいと思われます。

★"hereunder"
="under this agreement" 「本契約書に従い」を意味します。
英文契約書では、このようにワンワードに省略したような単語が結構登場します。他にも、"hereof" や"thereof" などがあります。

★"such"
="said (payment)" と言う代わりに用いたもの。細かく言えば、「このような(支払)」ではなく、「その(支払)」を意味します。この"such" に対応する日本語としては、「当該〇〇」という言葉も多く使われます。

 

以上は契約用語のほんの一部ですが、他の用語についても今後同コーナーで順次紹介していきたいと思います。学校英語とは大分異なる独特の表現ですが、慣れれば特に難しくはありません。契約書翻訳においては避けて通れない部分とも言えます。

 

国際契約において、契約の両当事者が完全に同等の立場に立つことはほとんどなく、一方の当事者が優位に立つのが常と言えます。ですから、当事者の力関係を考慮せず、安易に標準条項をはめ込んで契約案を作成しても、国際ビジネスの実態から見ると非常に非現実的な取引案となる恐れがあります。

契約書案は先ず優位に立つ側が作成し、相手側に提示するのが普通です。
その第一条を見れば、当事者間の力関係がわかりますし、優位に立つ当事者がどの程度その権利を膨らませて主張したいのかも明らかになります。その程度は、契約書によって様々であり、中には驚くほどあらゆる点で優位当事者に有利なように作成されているものもあります。

そうした当事者間における力関係の要因となるのは、例えば、資本力、経営状態、市場占有率、販売力(優れた販売・アフターサービスのネットワークなど)、有名商標、優れた技術や特許などです。

以上は契約案作成時の話ですが、契約の有効期間中に、一方の当事者の経営状態の変化などが生じた場合、当事者間の力関係が変化することもあり得ます。

契約案の作成者は、従業員であると法律家であるとを問わず、自社あるいはクライアント(依頼主)に対する思い入れがあり、それが契約文言に影響を与えます。

そもそも取引契約が自己の事業の利益追求を目的としている以上、契約は当事者間の利害関係の激しいぶつかり合いとその妥協の産物と言えます。なかには、他方当事者の海外進出を妨害するために、骨抜きの契約を締結することすらあるようです。

契約における両当事者の利害関係を言い出すときりがないですが、契約書の文言にはそういった様々な思惑が反映されているわけです。従って、翻訳する側としては単に字面を追うだけの作業に終始するのではなく、契約における両当事者の立場をおさえた上で訳出しすることが求められるのです。

本ブログ「LOOPの窓」に新たなコーナーを加えます。
ここでは、ビジネス法務文書である契約書の翻訳について触れてみたいと思います。


私共ループ・インタープリターズ(以下、LOOP)の強みの一つに実は契約書翻訳があります。
おかげさまで、弊社のお得意様の一つである都内の総合法律事務所様からは、弊社の翻訳に対し日頃から高い評価を得ております。
大変ありがたいことに、弁護士の方々からクライアントを直接紹介されることもしばしばです。

LOOPのそうした実績の背景には、強力な翻訳者を抱えていること、ならびに納品前の徹底したチェック体制があります。
そう聞けば、どこの翻訳会社も同じだと思われるかもしれませんが、そこで重要になるのが「言葉へのこだわり」だと思います。

契約書はある意味乱暴に言ってしまえば、定型文書に近いものもあるので、言葉がわかる人が翻訳すれば大体かたちになってしまうこともあるかもしれません。
ですが、契約書の翻訳に関しては、注意が必要です。
いくら翻訳経験が豊富な人あるいは優秀なネイティブチェッカーであろうと、契約書そのものをわかっていなければ、ほぼ例外なくおかしな訳を作り出してしまうことになります。


LOOPでは、たとえ翻訳者が優秀であっても、その翻訳へのチェックを抜かりなく行う姿勢を貫いています。契約書には当事者間の権利関係がつぶさに明記されているので、翻訳する側も責任は重大です。
翻訳内容に疑問があれば、納得できるまで翻訳者と協議を重ねます。自分たちが納得しないものを、クライアントが納得するわけがないからです。
そうした作業を短納期の状況のなかでも、極力行うようにしています。

また時には必要と判断すれば、契約書原稿内容へも踏み込んでクライアントへ意見を申し上げることもあります。契約書内容で明確性に欠ける点などが見当たれば、それ指摘し、より完成度の高い契約書にしていくお手伝いをするのも私たちの仕事なのではと考えています。

そうした姿勢も、クライアントから信頼を得る一因になっているのではないかと思います。

LOOPのHPホームに表記されている「お客様の口コミで広がったループの翻訳」というフレーズには、そういった事実的根拠があるのです。
もちろん、これは契約書翻訳に限ったことではありません。

 

 

 

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