Mother Goose(マザーグース)と聞くと「英語圏の小さい子供向きの童謡」と思われる方もいるかもしれませんが、実は一般の会話や新聞などの政治・経済欄の見出しや、コマーシャルや小説など幅広い分野に頻繁に登場します。童謡といわれながらも、シェークスピアの有名なフレーズの次によく使われるほどです。ですから、子供向きと馬鹿にはできないものです。
マザーグースは英国イギリスが発祥地。欧米諸国(英語圏)の人々は平均でも100のマザーグースの詩を口ずさむことができるといわれています。日本でも数多くのライムが翻訳されていますし、小さい頃からなじみのある歌もあります。本来、マザーグースのライムは英語という言語の持つ韻を含むリズムや音を楽しみながら学ぶものなので、残念ながら日本語に翻訳されたものはその面白さが半減してしまいます。例えば、"spice" "nice"や"bread" "head""dead""red"は脚韻を踏んでいます。母国語で作られたものを母国語以外の言語に翻訳するときはどの言語においても必ず直面する問題です。ですから、まずは意味を知ろうとするのではなく、原文の音を楽しむことから始めるとマザーブースの面白さがわかると思います。
マザーグースという言葉は日本ではイギリスの伝承童謡の代名詞として普通に呼ばれていますが、正式には Nursery Rhymes (ナーサリー・ライム=童謡/わらべ歌)と呼ばれています。マザーグースがこの英国伝承の童謡の象徴になったきっかけは、1806年にイギリスの道化師によって上演された「Harlequin and Mother Goose; or the Golden Egg (ハーレクインとマザーグース、または金の卵)」で、伝説的なマザーグースのイメージに魔女の要素が加味されたのです。この劇を韻文化した物語詩が行商人が売り歩いたことにより広がったといわれています。
いまさらマザーグースなんてと思われる大人の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、なぜ英語圏の国々では大人の世界でもこのマザーグースのフレーズが使われているのでしょう?マザーグースの世界には、実は大人の男と女をテーマにしたものやナンセンスなもの、不気味で残酷な内容のものが少なくありません。きれいごとだけではすまされないのも人間の世界。このあたりが単なる童謡としての価値以上のものがあるのではないでしょうか。または、イギリス人ならではのユーモア(ブラックユーモア)の精神が現れているのかもしれません。
Tom, Tom, of Islington,
Married a wife on Sunday
Brought her home on Monday
Bought a stick on Tuesday,
Beat her well on Wednesday,
Sick was she on Thursday,
Dead was she on Friday,
Glad was Tom on Saturday night
To bury his wife on Sunday
トム トム イズリントンのトム
日曜日に 奥さんと結婚し
月曜日に 奥さんを連れて帰り
火曜日に こん棒を一本買い
水曜日に 奥さんをこっぴどく叩き
木曜日に 奥さんはすっかり寝込み
金曜日に 奥さんはあの世に行き
土曜日の夜は 嬉しそうなトム だって
日曜日に 奥さんを埋葬するからさ
思わず苦笑いしてしまいます。結婚は人生の墓場を表現したものでしょうか。。。この他にも、ハバートおばさん(Old Mother Hubbard)では、飼い犬が死んだかと思うと次の詩ではパイプをふかしていたり、出かけて帰ってくると今度はフルートを吹いていたり、まったく意味不明な内容もあれば、Three Blind Mice(三匹のめくらねずみ)では、刃物を持ってネズミを追いかける怖いおばさんがいたりします。Ding,Dong,Bell(ディンドン鐘がなる)では、子猫を残酷に殺すような子供が登場したりと日本ではちょっと考えられないようなものもきちんと伝承されているのです。このようなテーマのものは、ミステリー小説にも数多く登場します。イギリスのミステリー作家アガサ・クリスティーの小説の中にもでてきます。
2012年にはロンドンでオリンピックが開催されます。今後は、英国イギリスが何かと注目されてくるでしょう。大人のマザーグースの楽しみ方の一つに、ロンドンのマザーグースめぐりはいかがでしょう。日本でもおなじみの「ロンドン橋」から始まり、Oranges &Lemons(オレンジとレモン)の中でうたわれたロンドン市内の16の教会めぐりもおつなものです。Upon St. Paul's Steeple(セント・ポール大聖堂)やご紹介した上記の歌のように怖~いイズリントンを訪れるのも面白いでしょう。他にも、ロンドンにはマザーグースの歌のタイトルがついた古くから続くパブやストリートが数多く残っています。