前回の記事に続き、松戸チェスクラブ主催チェスセミナー(5月31日 日曜 開催)をとりあげます。本記事では同セミナー第1部のGM Alexander Baburin氏によるセミナーが主な内容です。
(前回の記事にもあったとおり、私は茨城県笠間市から足を伸ばし参加しました)

(5月31日 松戸でのチェスセミナーの模様:左がGM Alexander Baburin氏、右が元全日本チャンピオン FM 渡辺氏。渡辺氏は通訳を担当。)
1)Alexander Baburin氏によるレクチャー
先ず、Alexander Baburin氏(以下、GM:グランドマスター)自身の過去の対局2ゲームが紹介され、対局においては戦術を立てて展開していくことの重要性が一貫して述べられました。
2対局紹介の後は、質疑応答やエンディング(対局の終盤)についてのレクチャー(いくつかのエンディング局面を提示し、セミナー参加者に次の打ち手を問いかける形式)で進行されました。
以下、GMレクチャーでのポイントを私なりにまとめてみました。
★「強いチェスプレーヤー」は2つに分けられる。
①強い展開でチェックメイトを狙っていくタイプ
②終盤にかけてテクニックを駆使し勝利を収めるタイプ
GMは自身のプレースタイルを後者に当てはまるとし、具体的にはAnatoly Karpov(アナトリー・カルポフ:ロシア人、第12代世界チャンピオン)のスタイルに近いと自らを評しています。
【参考:Anatoly Karpov 語録】(レクチャーとは無関係)*********************************************
「ゲームの進め方には2種類あるとしよう。ひとつは、美しい戦術的な一突きで変化をつけ、正確な読みを阻止するやり方。もうひとつは、陣形の変化で圧力をかけるやり方だ。私は躊躇なく後者を選ぶ。」
('Let us say that a game may be continued in two ways: one of them is a beautiful tactical blow that gives rise to variations that don't yield to precise calculations ; the other is clear positional pressure that leads to an endgame with microscopic chances of victory. I would choose the latter without thinking twice.')
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★エンドゲームの学習はチェス全体の理解につながる。
過去最も優れたチェスプレーヤーに一人として、Jose Capablanca(ホセ・カパブランカ:キューバ人、第3代世界チャンピオン)が挙げられる。カパブランカの本はエンドゲームから始まっていることからも、エンドゲームを学ぶことは非常に重要であることがわかる。若いプレーヤーは、とかくオープニング(対局の序盤)から学ぶ傾向にある(その方がエキサイティングだし面白みがある)が、エンドゲームの展開を習得することはチェス全体の理解につながるということを知ってほしい。(GMはこの点を強調していました)
【参考:Jose Capablanca語録】(レクチャーとは無関係)********************************************
「私は常に慎重にプレーし、余計なリスクを避けるよう心がける。私のやり方は、チェスの本質に反した不必要かつ"大胆な"いかなる方法よりも正しいと思う。チェスはギャンブルではなく、厳格な論理の規則に沿って行われる純粋に知的な戦いだ。」
('I always play carefully and try to avoid unnecessary risks. I consider my method to be right as any superfluous 'daring' runs counter to the essential character of chess, which is not a gamble but a purely intellectual combat conducted in accordance with the exact rules of logic.')
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またGMはMikhail Botvinnik(ミハイル・ボトヴィニク:ロシア人、第6代世界チャンピオン)の言葉も紹介し、エンドゲームの重要性を説いていました。その言葉とは、終盤での局面をいかに多く知るかが強いプレーヤーになる秘訣だということです。GMいわく、Mikhail Botvinnikはエンドゲームの局面を1万パターン程知っていたということです。
★戦術(プラン)の立て方
対局においては、1局を通して戦術(GMは"plan"という言葉を使用していました)を立てることなどあり得ず、局面によってその都度、別の戦術を論理的展開により練っていく。
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この点については私の主観として、先述のエンディングの学習によっても培われる要素だと思いました。つまり、エンドゲームの展開を習得することはチェス全体の理解につながる、ということに関係しているということです。
★古典的(伝統的)チェスを学ぶことも大切
最近の若いプレーヤーはチェスがここ20年くらいの間に発展してきたと思っている者がいる。そうしたプレーヤーはとかくGarry Kasparov(ガルリ・カスパロフ:1985年に史上最年少の22歳で世界チャンピオンとなり、15年間にわたり世界チャンピオンのタイトルを保持した史上最強と謳われるロシアのチェスプレーヤー)の対局集ばかり学んでいることがあるが、それは間違いである。チェスの長い歴史に名を残してきた先人達のチェスを学ぶことも大切である。

★チェス上達のためのお勧め方法
・本を読むのも大切だが、自分の対局や自分で実際に考えた打ち手を分析してみるのが一番身になる。
・ある局面(自分が選んだ過去の名局でも何でもよい)において自分が考える戦術(プラン)を紙に書き出していき、それを盤上で実際の対局内容と比較してみる。
(どんなにひどい戦術であったとしても、無いよりはずっとマシ)
・チェスの本を読む時、ボード上に駒を並べることはせずに、頭の中だけで理解するようにしてみるとよい。数手先まで読めるようにするための訓練となる。
・毎日エンディングの問題をいくつか解いてみる。
(FM 渡辺氏の話:初めて全日本チャンピオンになった時、学生として修士課程に身を置いていたが、当時通いの電車の中で毎日2時間くらいエンディングの問題を解いていた。それが実力アップにつながったのは間違いない。)
以上がGM Alexander Baburin氏によるチェスレクチャーを私なりにかいつまんでまとめたものです。
【番外編】
レクチャーの最後に私からGMへ質問をしました。私はまだテクニック的なことはあまりわからないので、一般的なことを。ビギナーだからといって恥ずかしがらずに手を挙げました!
Q1:現在、世界トップに挙げられるプレーヤーは?
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A1:Match game(1対1の対局)であればViswanathan Anand(インド人、現世界チャンピオン)、Tournament game(複数のトッププレーヤー達による総当たり戦)であればVeselin Topalov(ブルガリア人、来年春に予定されている世界チャンピオンシップ戦で現チャンピオンのViswanathan Anandと対戦が決まっている)だろう。
Q2:現在の世界トッププレーヤーのなかで、ビギナーにとって良い見本となる(見習うべき点があるという意味も込めて)プレーヤーはいるか?
(これはある意味馬鹿げた、乱暴な質問だと思いましたが思い切って投げかけてみました)
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A2:それは自分がどんなプレースタイルを好むのかによる。自分が攻撃的なプレーをしたいのであれば、例えばAlexei Shirov(先月開催された M-Tel Masters で優勝したばかり)を追ってみるのもいいし、サクリファイスを利用して優位な展開を得ようとするようなプレースタイルなら、例えばVladimir Kramnikが良い見本となるだろう。
ビギナーとはいえ、日々世界のチェス情報を追っている私にとっては "Chess Today"(Eメール配信型のデイリー チェス新聞)の編集長も務めるAlexander Baburin氏に直接質問できたのは幸運です。
ちなみに今回の来日を記念してか、Alexander Baburin氏の好意により、最近発行されたChess Todayが日本チェス協会のHPから無料閲覧可能となっています。同リンクページの最下部右端にある「LINK」コーナーからダウンロード可能です。先月末に作成されたもので、同氏が日本滞在中に感じたことなどが記事となっています。日本人プレーヤーの弱点にも触れられており、興味深い内容となっています。
次回は2)Alexander Baburin氏との同時対局 に触れたいと思います。