ニッポンを主張するアーティストの通訳能力

| | コメント(0) | トラックバック(0)

 

「通訳」と「異文化コミュニケーション」は同じ意味に捉えられることが多いです。どちらの言葉も何気なく使われていますが、実際に行うことは容易ではありません。それをアートの世界で実践している日本人を紹介したいと思います。


 村上隆(むらかみ たかし)さんと言えば、今ではその名を知る人は多いと思います。

murakami_im01.jpg      tongarikun by Murakami.jpg

 

同氏は、東京芸術大学 美術学部 日本画科卒、29歳でアーティストデビューし、39歳の時に米国の展覧会で海外進出を果たし、2005年ニューヨークで開いた「リトルボーイ展」で米国のメディアに絶賛されました。アニメやマンガをモチーフにした絵画やフィギュアを発表し続けるアーティストとして、欧米で高く評価されています。「オタク文化」と呼ばれる日本のサブカルチャーを世界に認めさせた現代アートの革命児と言えます。現在は、ニューヨークにもオフィスを構え、日本にある工房では24時間体制で制作にあたるなど積極的に活動しています。(現在46歳)

2005年「リトルボーイ展」の"リトルボーイ " とは、米国が日本に落とした原爆の名称です。村上隆さんはこの展覧会で、敗戦を経て戦争を放棄し平和国家となった日本において、その歩みのなかからアニメやマンガといった独自の文化が生まれたという考えを示して見せました。当時の米国メディアは、『大胆不敵で日本の文化や歴史への理解が深まる素晴らしい機会になるだろう』とこぞって評価しました。

39歳の時の展覧会では、葛飾北斎の浮世絵と自身が好きだった「銀河鉄道999」の絵を並べ、アニメやマンガの構図や表現方法は浮世絵から連なる日本の伝統美であると説明したのです。


この村上隆さんの作品には、人間の普遍的なコミュニケーションが根底のテーマとしてあります。興味深いのは、同氏があの有名な画家ピカソと同じ手法により自らが通訳として日本のアートを世界に送り込んだという点です。ピカソの絵は、アフリカのアートを採り入れた西洋画家の風体(ふうてい)をしてプレゼンテーションされたものである、と同氏は捉えています。同様に、日本のアートをアフリカの土着的な芸術のように考えて、それを油絵風味で通訳することである種の化学変化を起こすというのが村上隆流のコンセプトだと語っています。


「通訳する」と一口に言っても、実にさまざまなかたちがあることに気付かされます。アーティストにとってはそれが独自の文化や感性を世界に発信していく作業そのものとも言えます。ループ・インタープリターズ(以下、ループ)の『インタープリターズ』には、通訳者という一意的な意味だけでなく、もっと広い意味での「解釈者」として世の中から必要とされる存在になるという願いも込められています。クライアントからいただく一つ一つの通訳・翻訳の仕事に対し、言葉という道具を用いたサービスを提供することで期待に応え続けていく、それがループの姿です。村上隆さんの話しぶりには随所に巧みな言葉使いが感じられますが、それはアーティストとして自分の感性を世界に発信していくためのツールとして、コミュニケーション能力を重視しているからだと思います。


村上隆さんは、今アニメーションの制作にも取り掛かっており、そのことについて「これまでにやってきたことがないコンテクストなので難しいが、映画という文法を借りて自分のメッセージを伝えたい」と語っています。メッセージには当然言葉が必要になりますが、そこにどんな言葉を置くかは感性が大きく影響します。ループの事業である通訳・翻訳に当てはめれば、訳語の選定ということになりますが、そこにはアートの要素も関係していると思います。言葉の持つ意味を文化的背景とともに的確にとらえ、それを別の言語で表現していくプロセスには、機械では消化しきれない思考能力が必要となります。 


同氏は、今「寿命」をテーマにそれを子供にどうやって伝えるのかについても思いを巡らせているようです。「遺伝子を引き受けてなぜ生きていくのか?という意味を、宗教や医学の世界のエッセンスを全部盛り込んで伝えてみたら子供はどうやって育つのか、をアニメーションを通してやってみたい」と現代アートの分野で新たな表現方法を模索しています。世界に胸を張って自分の芸術を認めてもらうことは素晴らしいことであると語る一方、日本は世界一の芸術大国になる可能性を持っているが豊か過ぎてそのことに気が付いていないと考えるその冷静さにアーティストとしての能力の高さを感じます。

 

 

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: ニッポンを主張するアーティストの通訳能力

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.loop-interpreters.co.jp/mt/mt-tb.cgi/102

コメントする

このブログ記事について

このページは、Ted Matsuuraが2008年11月22日 15:07に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「The 38th Chess Olympiad 2008 ~開幕!~」です。

次のブログ記事は「The 38th Chess Olympiad 2008 ~Miscellaneous~」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。