30年にわたり通訳の検定試験などを実施してきた「日本通訳協会」が資金繰り悪化を理由に東京・新宿にある事務所を閉鎖していたことが判明しました。
明日予定されていた検定試験も直前に中止されることになったようです。
同協会は「今般の経済不況のなかで必要な金融支援も受けられず、やむなく閉鎖せざるを得ない」と説明しています。(日本通訳協会閉鎖のお知らせはこちら)
私が経営するループ・インタープリターズ(以下、ループ)には直接関係はありませんが、通訳業界に身を置く一人として、少し複雑な気持ちになりました。ループの通訳事業では、第一線で活躍する優秀なプロの通訳者を起用するのですが、プロの通訳者はこの通訳検定ではなく、通訳養成の専門スクールを卒業している人が多数を占めます。通訳検定を受験するのは、どちらかと言えば通訳を生業にしていない人がほとんどでしょうが、通訳がどんなものなのかを知ってもらうという意味でもとても有効な制度だと思います。
専門性の高い講演などの通訳を請け負う際に注意を要するのは、クライアントがどの程度通訳を理解しているか、あるいは通訳を使い慣れているかということです。通訳についてほとんど理解されていないクライアントを相手にする場合、ある程度の時間をかけて通訳の仕事そのものについて理解を促すことが欠かせません。通訳という存在に不慣れなお客様によくあるパターンとして、通訳は機械的にいとも簡単に言葉を発していくと思っていることです。そんなことは決してなく、事前の入念な準備(講演者などから入手する資料など、時には膨大な量になることも)はもちろんのこと、本番での凄まじい程の集中力や培ってきた思考回路を駆使して最高のパフォーマンスを発揮しているのが通訳です。
たとえ他の言語を流暢に話すことができても、通訳ができるかと言えば、それは別の話です。ある程度高いレベルの言語力があって、それにプラスして通訳に必要な記憶保持能力や高速かつ正確に機能する思考回路などが通訳には求められるのです。そうした能力は一朝一夕には得られるものではなく訓練が必要となりますが、一方で一般にはこうした事実はなかなか知られていません。そういった意味で、今回中止となった通訳検定は、通訳がどんなものなのかをより広く知ってもらうには良い手段であったと思われます。
通訳の代表的な活躍の場として国際会議がありますが、ここ近年日本国内における開催数が年々減少傾向にあります。一方で、シンガポールなど他のアジアの国における開催が増加しています。そんな現状を背景に、この度の日本通訳協会の閉鎖が通訳業界にどんな影響を及ぼすかはわかりませんが、これでより一層「知る人ぞ知る」世界になってしまうことを私は危惧します。

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