"エクソフォニー"とはドイツ語で「母語の外へ出た状態」一般を指します。あまり聞いたことがないと思いますが、この言葉は2002年の文学研究の学会である研究者が言葉にしたものらしく、ドイツ語の辞書を調べも見つけることができなかったので、新しい概念を持った言葉だといえるかもしれません。非常に美しい響きがある言葉です。この言葉を知るきっかけとなったのが、多和田葉子さんという作家が書いた「エクソフォニー ~母語の外へ出る旅~」という本です。
彼女は日本語とドイツ語の両方で本を書きます。ご本人は作家でもあり、翻訳家でもあります。実際、その国の人が母国語で本を書くというのは当たり前ですが、母国語以外で小説を書くというのは実際あまりありません。ドイツ人がフランス語で小説を書くとか、アメリカ人がスペイン語で小説を書くとか、日本人が中国語の小説を書くというようなことはあまり多くは聞きません。彼女は日本でもドイツでも多くの賞を受賞していますが、なぜ彼女が日本だけでなく母語を越えて成功することができたのか-これは、個人的な解釈ですが、単なる外国語として捉えるのではなくある常識から「外へ出る」ことを試み、自分の周りにある以外のものを理解し吸収していったからではないかと思います。
日本では、英語が何かと注目されがちですが、言語は、その国の持つ文化や歴史、そして政治的な問題など様々なものにつながっている非常に奥の深いものですので、世界的な共通語として英語だけを見つめるとなかなか世界が見えてこないことも多いといえるでしょう。
翻訳や通訳といった仕事をしていますと、"エクソフォニー"な世界が見えてきます。ビジネスの分野、研究の分野、法律の分野、芸術や文学の分野、それぞれ異なった分野で母国語と母国語以外のところをいったりきたりする作業はまさしく"エクソフォニー"な世界です。時には、まったく知らなかった分野に触れ、これまでとてもできそうにないようなことがいつの間にかできるようになったり、また何度もやってきたことなのにうまくいかず更に学ぶことがあります。翻訳や通訳は機械でできるような単一の世界ではありません。文章を書くのはコンピューターではなく、人から生まれます。表現も環境も異なるところから生まれたその言葉を一つの言語にまとめていくイメージ力と言語力を持つ翻訳者や通訳者は"エクソフォニー"な人といえるかもしれません。

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